2014年3月6日木曜日

仮想の分子標的 (Putative Molecular Targets for AD)


アルツハイマー病に関係する (仮想)分子標的: 

A β Amyloid Tau Amyloid;


 

βアミロイド(β amyloid:A β)の付着はアルツハイマー病の発病初期に見られ,続いて変性神経原繊維NFT 内に Tauを含む二重らせん,Paired Helical Filaments(PHFs) の形成が起こります.

変異を受けたプレセニリン,PS1, PS2 変異がアミロイド付着を促進することが報告されています.

老人斑の核となるA βは38-43 アミノ酸残基からなりますがその中でもA β 42 が多く,A β 40 よりもずっと速く繊維状の集合体を作ります.A β遺伝子は21 番染色体上にあり,膜貫通性のアミロイド前駆体タンパク(APP) をコードしており,APP がA βとなります.

 

A βのプロセシングと分泌は2 段階の分解過程を経て行われます.第一段階はβセクレターゼにより行われます.APP のMet671 のところでAPP が分解され,Asp672がアミノ末端となります.

第二段階はγセクレターゼにより,A β (A β 40-43) のC 末端部分が分解されます.

 

Tau は過剰にリン酸化を受け機能不全となる

アルツハイマー病の脳内でのTau タンパクの存在様式は著しく異常です.

アルツハイマー病では,通常水溶性の細胞骨格タンパク質であるTau や神経繊維が不溶性のPHF に変わっています.

これはTau が多くのキナーゼにより過剰にリン酸化されることが重大な引き金となります.

リン酸化はMAPキナーゼカスケード,NF- κ B の活性化を経由した酸化ストレスと接に関連しています.変性を受けている海馬の錐体ニューロンではフリーのカルボニル基,過酸化脂質の内在化,ニトロチロシンレベルの上昇が報告されています.

Tau は神経タンパク質で大部分がアクソン(軸索)に存在しており,細胞体に存在していることは少なく,神経突起にはほとんどありません.

 in vitro では,Tau はカルモジュリンキナーゼII,カゼインキナーゼII,PKA,ERK2,GSK3 など各種タンパクキナーゼの基質となります.

サイクリン依存性キナーゼ5 と,そのニューロン特異的p35 アクチベーター複合体(Cdk5/p35) もTau の過リン酸化に関与しているタンパクキナーゼです.

 

調節ユニットであるp35 はカルパインにより切断を受けてp25 となりますが,これはアルツハイマーの脳内に蓄積します.この切断は皮質ニューロン内でA βにより誘導されることが報告されています.

 

Tau のリン酸化に関与するタンパクキナーゼとしては他にMARK が知られています.この酵素は微小管結合領域のKXGS モチーフを選択的にリン酸化します.MARK はSer262 を主にリン酸化しますが,Ser293,Ser324,Ser356 もリン酸化します.

 

アルツハイマー病においてはTau のSer262 リン酸化が始めに起こり,Tau の機能が不全となってPHF,NFT 形成につながることが示唆されています.

 

PHF のTau は少なくとも19 か所でリン酸化されており,そのうち9 か所は Ser/Thr-Pro モチーフ をもっていることが報告されています.

 

Tau は過剰にリン酸化された結果,微小管と結合できなくなり,微小管の重合を促進することになります.過リン酸化されたTau は微小管ネットワークの安定性の低下,軸索輸送の阻害,NFT の形成,神経死の原因となります.

 

Tau は微小管結合部位の数箇所(Ser262, Ser356 影響大,Ser293, Ser324 やや影響大) がリン酸化されるだけで微小管への結合能を失ってしまいます.

 

さらに興味深いことに,過リン酸化されたTau はカルパインによる分解を非常に受け, 小管への結合能を失ってしまいます.

 

さらに興味深いことに,過リン酸化されたTau はカルパインによる分解を非常に受けにくくなります.

これはTau が,微小管結合部位どうしで自己重合し,カルパインがこれらの部位に近づけなくなった結果と考えられます.

 

Tau の自己重合は,酸化環境下で促進されます.また,酸化環境下でTau の集合が進むと糖鎖付加,つまり非酵素的な還元糖の付加がおこります.これはリジン残基のところで起ることが多く,Schiff 残基の形成の結果だと思われます

 

糖鎖付加と過リン酸化が両方されたPHF-Tau は,過リン酸化だけされていて糖鎖付加されていない可溶性Tau と比べて微小管結合能が格段に落ちます.酸化的架橋を受けることによりタンパク質はプロテアソームの活性を阻害することにで分解を受けにくくなります.従って酸化的架橋はNFT 内でのユビキチン抱合体の蓄積の重要な原因かもしれません.神経変質性を伴う疾患ではユビキチンの濃度が高くなっていることも報告されています.それで,酸化ストレスを減らすとアルツハイマー病の発症を抑えるうえでの治療的効果があるのかという重要な問題が上がってきます.

 

実際,フリーラジカルの生成を抑える薬品がアルツハイマー病の発症と進行を遅らせることが示されています.

14. アルツハイマー症関連阻害剤

 

もう一度、<Tau の酸化>について考える;

Tau の自己重合は,酸化環境下で促進されます.また,酸化環境下でTau の集合が進むと糖鎖付加,つまり非酵素的な還元糖の付加がおこります.これはリジン残基のところで起ることが多く,Schiff 残基の形成の結果だと思われます.糖鎖付加と過リン酸化が両方されたPHF-Tau は,過リン酸化だけされていて糖鎖付加されていない可溶性Tau と比べて微小管結合能が格段に落ちます.

 

酸化的架橋を受けることによりタンパク質はプロテアソームの活性を阻害することにで分解を受けにくくなります.従って酸化的架橋はNFT 内でのユビキチン抱合体の蓄積の重要な原因かもしれません.神経変質性を伴う疾患ではユビキチンの濃度が高くなっていることも報告されています.

 

それで,酸化ストレスを減らすとアルツハイマー病の発症を抑えるうえでの治療的効果があるのかという重要な問題が上がってきます.実際,フリーラジカルの生成を抑える薬品がアルツハイマー病の発症と進行を遅らせることが示されています.プロピル没食子酸,ビタミンE などの抗酸化剤,Ntert- ブチル- β - フェニルニトロンのようなスピントラップ剤はA βを与えた培養細胞での神経毒性を減少させます.

 

ビタミンE はラットにおいて海馬の神経の生存を促進し,機能低下したコリン作動性ニューロンを回復することが報告されています.ニューロンのダメージを最少化する別の方法としてAPP からのA βの生成を減らす,または阻害するという方法があります.β , γセクレターゼの活性を阻害することは魅力的な治療法です.というのは臨床的にこの段階に介入することで,老人斑の形成と神経細胞死にいたる初期段階に

効果があると考えられるからです.

 

 

14. アルツハイマー症関連阻害剤__

 

Indirubin-3´-monoxime 402085

サイクリン依存性キナーゼの強力な阻害剤(Cdk1 に対してIC₅₀ = 180 nM).広い細胞スペクトルに対し,細胞周期をG₂/M 期にとどめることによって増殖を阻害します.in vitro でタウリン

酸化を阻害し,in vivo ではアルツハイマー疾患に特異的な部位タウリン酸化を阻害します.CdK5 によるDARPP-32 のThr75 のリン酸化をin vivo で阻害することも報告されています.

Indirubin-3´-monoxime, 5-Iodo- 402086

グリコーゲンシンセターゼキナーゼ3 β (GSK-3 β ) の極めて強力な阻害剤(IC₅₀ = 9 nM).Cdk1(IC₅₀ = 25 nM) およびCdk5(IC₅₀ = 20 nM) の活性も阻害します.インジルビン誘導体は,Cdkと結合する場合と同様に,GSK-3 βのATP 結合ポケットに結合します.GSK-3 βとCdk5 は,大半の場合,アルツハイマー病(AD) における微小管結合タンパク質Tau の異常な過剰リン酸

化の原因となっています.

Indirubin-3´-monoxime-5-sulphonic Acid 402088

Cdk1(IC₅₀ = 5 nM) およびCdk5(IC₅₀ = 7 nM) の強力な阻害剤.グリコーゲンシンセターゼキナーゼ3 β (GSK-3 β ) も阻害します(IC₅₀ = 80 nM).このインジルビン誘導体は,Cdk との結合と同様,GSK-3 βのATP 結合ポケットと結合します.GSK-3 βとCdk5 は,大半の場合,アルツハイマー病(AD) における微小管結合タンパク質Tau の異常な過剰リン酸化の原因となっています.

Ro-31-8220 557520

{3-[1-[3-(Amidinothio)propyl-1H-indol-3-yl]-3-(1-methyl-1H-indol-3-yl)maleimide; Bisindolylmaleimide IX, Methanesulfonate}

プロテインキナーゼC(PKC) の競合的阻害剤(IC₅₀ = 10 nM).CaM キナーゼII(IC₅₀ = 17 μM),プロテインキナーゼA(IC₅₀ = 900 nM) から選択的に作用します.また,MAP キナーゼ・フォスファターゼ1 の発現の阻害剤,かつJNK1 の活性化因子アクティベーターです.HL-60 細胞において,PKC への効果とは独立にRaf-1 のリン酸化を阻害し,アポトーシスを誘導します.CAS

138489-18-6.

InSolution™ Ro-31-8220 557521

{3-[1-[3-(Amidinothio)propyl-1H-indol-3-yl]-3-(1-methyl-1H-indol-3-yl)maleimide; Bisindolylmaleimide IX, Methanesulfonate} Ro-31-8220 ( 製品番号 557520) の5 mM (500 μg/182 μL) 水溶液です.

 

 

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