2014年3月16日日曜日

ソ連から来た薬


ソ連から出たくすり:

 抗がん剤の中でも大鵬薬品を大きく発展させたのが、
旧ソ連製の抗がん剤「フトラフール」だった。
1970年代前半は呉羽化学(現クレハ)と三共(現第一三共)が共同開発した「クレスチン」、
中外製薬の「ピシバニール」と並び、抗がん剤の代名詞のような存在だった。

 
会社発展の〝起爆剤〝
 大鵬薬品が一躍、注目され、飛躍の元になったのが、前出のフトラフールだった。
69年、社長だった小林幸雄氏が全ソ医薬品輸出入公団と100万ドル(約36000万円)で契約して導入。当時、最も効果のある抗がん剤とされた。しかも薬価差が大きかったため、前がん症状やがんの疑いのある患者に盛んに処方され、同社は大いに潤った。だが、それだけに誤解に基づく批判もあった。
 


一方、元日本医科大学学長の丸山千里氏が64年からがん治療に用い始めた「丸山ワクチン」は、
81年の中央薬事審議会で効果がないとされ、新薬承認を得られなかった。
しかし、がん患者の家族が一縷の望みを託して日本医大に列をなして丸山ワクチンの試供を望んだ
ことから、丸山ワクチン問題は国会でも取り上げられる騒ぎになり、
「効き目のない三共のクレスチンや中外製薬のピシバニールを承認して
丸山ワクチンをなぜ承認しないのか」と批判が巻き起こった。
この騒ぎの中で、同社のフトラフールもクレスチンやピシバニールと同列に扱われ、
儲け過ぎという批判にさらされた。

 フトラフールはがんに効果がある「5FU(一般名フルオロウラシル)」という代謝拮抗剤に転換する抗がん剤であっただけに、全国の病院で処方され大鵬薬品は急成長した。加えて、フトラフールは注射薬から顆粒化に進み、飲みやすく扱いやすくしたことで売り上げを伸ばした。

 同社は「がん」「アレルギー」「泌尿器」の3領域に特化した「スペシャリティファーマ」と位置付けられている。だが、なんといっても大鵬薬品が本領を発揮している医薬品は抗がん剤である。一時代を築いたフトラフールは肝臓で抗がん作用を持つ肝心な5FUが分解されてしまい、十分な効果を発揮できないことが分かると、フトラフールに体内での分解を抑えるウラシルを配合した「ユーエフティ」を開発した。


 
ユーエフティの改良により99年、「ティーエスワン(TS1)」が発売された。

ティーエスワンはフトラフールを中心にしたものだが、
ウラシルより5FUの分解抑制効果が強いギメラシルという物質に替えた上、悪心、下痢、嘔吐などの副作用を抑えるためにオテラシルカリウムを加えた3剤配合の抗がん剤だ。

 ティーエスワンはそれまでの5FU系の抗がん剤と比べて副作用が少ない上、効果が長時間続くという効能を持つ画期的な抗がん剤に代わった。だが、それにしても同社の研究陣が抗がん剤の代表とされる5FUと体内で置き換わるフトラフールに固執する執念は敬服に値する。


 がん以外の領域でも泌尿器分野では尿失禁や頻尿治療剤「バップフォー」を発売しているし、アレルギー分野では非ピリン系鎮痛剤から始まり副腎皮質ステロイド外用剤、抗アレルギー剤など優れた治療剤を開発、発売している。

新薬が不在

世界中が注目するような新薬は乏しい。例えば、アメリカのジェネンティック(現在はスイス・ロシュの完全子会社)は大腸がんに対して効果の大きいアバスチンや乳がんに使われるハウセプチンなど、世界中で使われる抗がん剤を開発している。


もちろん、大鵬薬品が発売する抗がん剤は大したことがないなどというつもりはない。
前述したように フトラフールに始まり、ユーエフティを発売し、さらに消化器系の抗がん剤の代表といってもおかしくないティーエスワンを開発した。日本人に多い胃がんには最も有用な抗がん剤だ。
 

だが、同社にとって気の毒なことに、胃がんが多いのは日本人や東南アジア人。欧米人には胃がん患者が少ない。食生活の違いだろうといわれているが、同社が努力を重ねて開発した優れた抗がん剤にもかかわらず、ティーエスワンは世界規模の売れ行きにならない。

創業からすでに47年。売り上げも1000億円を超える、ベンチャー精神を持つ中堅製薬会社であるはずだが、ジェネンティックのような世界を席巻するような独創的な新薬がない。それを期待するのは無理なのだろうか。
 

確かに同社は前述の3領域では抜きん出ている。英グラクソ・スミスクラインは自社で開発した前立腺肥大症治療薬「アボルブ」の日本での共同販促活動について大鵬薬品と契約したが、それは同社が泌尿器分野に強いのを頼ったものだ。だが、創薬となると、自社開発がいまひとつなのである。

例えば、1月に承認された抗がん剤投与に伴う悪心や吐き気を抑える制吐剤「アロキシ」は、今までの制吐剤では対応できない投与25日後に発現する遅発性の悪心、嘔吐に効果があるとされている。だが、この制吐剤はスイスのヘルシン社から導入したもので、海外ではすでに62カ国で販売され、アメリカではエーザイが販売している。抗がん剤に強いはずの同社が最近になって目を付けるのは遅すぎたといえないだろうか。

卵巣がん治療剤の「ヨンデリス」にしても同様だ。
 
同社は09年にホヤ類から発見された海洋生物起源の抗がん剤ヨンデリスをスペインのファーママー社から導入して開発、販売する契約を結んだ。だが、ヨンデリスは米国食品医薬品局(FDA)と欧州医薬品審査庁(EMEA)に卵巣がん治療剤として承認申請中である。

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