2014年2月26日水曜日

アリセプトへの道=創薬インタ~シップ講義資料:0227

タクリンから ドネペジル(アリセプト) への道

(杉本桶狭間創薬:第2弾)


 

背景(過去): タクリンは1931年(戦前)に、抗菌作用を目的として合成された。その後、タクリンは1986年(戦後40年)に、中枢疾患治療薬としての臨床試験結果が報告され、1993年に至り、FDAはタクリンをAD治療薬として世界で始めて承認した。

しかし、肝機能障害のため現在は使用されていない

 

タクリンの承認から3年後、

1996年にFDAはドネペジル(アリセプト)を 新たなアルツハイマ~(AD)治療薬として承認した。



ドネペジルは従来から知られていた化合物ではなく、
新規な構造を有する 世界初のAchエステラーゼ阻害剤=分子標的薬である。

 

●シード物語: ドネペジルは 分子標的薬の開発 を理解するには格好のテキストである。



ドネペジル開発の端緒になったシード化合物(1)は



偶然にも、薬理担当者からの アドバイスによって発見された。即ち、シード化合物は、別のPJで合成されたものだが、ラットにおいて 縮瞳、流涙などのAch作用が認められていた。


 

シード化合物(1)の誘導体を約100種類ほど合成すると、
Ach阻害作用が70倍も強くなった化合物が見出された。

しかし、インビトロで高活性であったものの、
インビボではでは、作用が認められなかった。

 

●リード物語(その1): 

ここで、

評価系の酵素をウナギから ラット由来の酵素に変えたところ、明らかにAch阻害作用は低く、1/40ぐらいの値だった。


そこで、ラットを使ったインビトロ系で、3年間に700程度の化合物が合成され、


その中から、最強のAch阻害剤(2)を見出すことができた。

リード化合物(2)は初めのシード化合物(1)と比べ、2万倍以上強い阻害活性を示したが、大きな問題点が見つかった。


 

●リード物語(その2): 

リード化合物(2)の問題点が

臨床試験(治験)直前に明らかになった。

 

☆ 2は、生体利用率(BA)が2%と極めて悪く、

98%が肝臓で分解されてしまうか、または吸収されないで、

排泄される運命にあった。


テーマは臨床研究担当者から猛反対され、一端終結 した。


 
 

◎ドネペジルへの展開: 
 
阻害活性の向上は多くの化合物を合成することで、デザインできたが、BAの改善はなかなか予想が付かないものだった。
 

薬物代謝(動態)の観点から見ると、

アミドN-メチル基の脱メチル化が主たる代謝経路である。

この点から、脱メチル化反応の起こらない、環状構造をした化合物のデザインが、突破口になった。


二環性化芳香環化合物を合成すると、
そのBAも満足できるものになった。 

そして最後のさいごに、

インダノン骨格 へとたどり着いたのである。

 
 
(杉本リーダーは思わず心で叫んだ!これでイインダノン! !!)
 

 

◎  ドネペジルはインダノン骨格を持ち、

  ベンジルピペリジン基を導入することで、

     満足するBAが得られた完成品である。

 

 

イヌのBAは60%、ヒトのBAは40%と改善され、

ヒトにおける血中濃度の半減期は70時間を越えるものであって、

このことが、ドネペジルの臨床試験で、一日一回投与を可能にした。


 

3 件のコメント:

  1. 私の教育哲学: 教科書X無記 AND 是非X不要。。。

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  2. アリセプトは 創薬とそれに 婦随するジェネリック研究の 生きた最良のテキストである。創薬を学ぼうとしたら、生きた=生の=創薬人と 面と向かって話をしなくては いけない!! 死んだイカは あぶっても食えない。生きたイカなら、酒のサカナにもってこいだ。サカナはあぶった イカ だけでいい。(八代亜紀)

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  3. ☆ 文中の 各化合物 (1~3)の構造式 を
    杉本先生の著書を参考にして、書き出しなさい。
    ただし、立体化学は 考慮しなくて良い。(その理由も 考えなさい)

    ☆ 返信は torihiri@gmail.com まで。

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