2016年12月17日土曜日

女主人の ものがたり (完)

https://www.youtube.com/watch?v=UnWF28nClJM






女主人の物語

童話でなくても 山小谷に生まれても 生まれなくても

狩に出かけた旅人は<山猫軒>の谷に招かれ 疲れたからだを癒すために

アルコールを友とする 中途半端な途におちいるものだ。

 

アルコール依存は 近年女性に多くなったと言われているが、

山小谷村ではちょっと違っていた。生活の中の安堵感を持続させるために、

疲労感、空虚感をうめるのにもアルコールは百薬の長であった。

キッチン・ドリンカー という言葉は 山小谷村にはあてはまらない。

 

古酒を飲むことは村民のアイデンテイテーであり、

DNA その証明であった。

従って昼ひなたで古酒を飲めることが、

とりもなおさず山小谷の習慣であり、

村落のアイデンテイテーであったのだ。

どんな習慣であっても 抵抗する力を麻痺させる点は同じである。

 

山荘の女主人も昼酒呑みであったから、精神と肝臓を痛めるのには 

たいして時間がかからなかったし、当たり前のこととされていたのだった。

やがて女主人が二十歳になった時には、母親に連れられて

山荘の階上に避難するようになったのだった。

 

昔の女主人も 今泣き崩れた不都合な女と同じ

アルコールに身をゆだねた 旅人だった。

3階の部屋に入れられた女主人は夜になると 

奇声を発し続けるのが常だった。

そうして黒毛山荘の管理人夫婦と三人でここで暮らした。

 

三人往けばわが師あり という言葉があった。

たかが三人であったが 依存の谷に落ちた女主人にとっては

わがままな我が身を省みるには

格好のわが師 わが時であった。

 

そうして思い立った若い女主人はまず借金をして、

時代遅れの軽自動車に乗り、仕事をするために

近隣の町まで通うようになった。

その行き帰りこの山荘で過ごし、

自分でも管理人夫婦の手伝いをして恩返しをした。

女主人は、やがて働いて貯めたお金で、

看護学校にも 通った。

 

 

 



新しい 主人公

 

 

山荘の古い話に戻るが、あの戦争が終わった頃には、

憔悴した若者達が 静養に来るようになったのだ。

それは都市部の建物が悉く破壊されたのに対し、

この山荘は 無傷で残された。

女主人は看護師として、また管理人としてこの館の主になった。

 

誰がどんな情況にあってもひとたびこの古洋館に足を踏み入れれば、

からだも 心の苦渋も 吐き出すことができた。

戦争で痛んだ傷病兵のような男には 

リハビリテーションのできる場所であり、

また、くろかわのような裏仕事をする男には 

格好のリセット空間であった。

 

 

 

黒毛山荘にしぶしぶやってきた不都合な二人の夜が始まった。

不都合な女には2階の一番奥の部屋が当てがわれ、

その隣室に先生と呼ばれる男の部屋が 用意された。

くろかわはここに泊まる予定では なかったのだが、

女主人に乞われてやむなく逗留を決めた。

 

案の定、夜半に異変が起こった。

一番奥の部屋から何か奇声が聞こえるのが

くろかわの部屋までわかった。

若い女の部屋は一番広くベランダもあったが、

夜は外から施錠することが出来た。

しばらくの間はじっと時の経つのを待つのが、

女主人のマナーであった。

やがて男の部屋の開く音がして、男が女の部屋に入ると、奇声は止んだ。

 

しばらく時をおいて、女主人は秘薬の入った酒と、

肴を用意して

廊下の突き当たりの女の部屋に向かった。

ノックをすると、男がまず出てきて安堵の表情を見せた。

女主人は酒と肴を置いてその場を去った。

 

この酒を飲めばよく眠れるという一言と、

自分も一杯だけ呑んで見せたから、

若い女も安心したのである。

若い女は 深い眠りの谷に導かれていった。

くろかわの部屋に戻ると、女主人はやれやれという顔をした。





酒には 野草が入っていた。

神経を沈める野草の成分は まだわからないが

確実に何かの成分が入っていのことは間違いない。 

しばらく、女主人とくろかわの時間が続いたが、

その静寂を破ったのは、一人になった先生のノックだった。



https://www.youtube.com/watch?v=UnWF28nClJM



 

 

 

 

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