2016年10月1日土曜日

新骨粗鬆薬=ロモソズマブ 2016

  現在最も広く使用されている骨粗鬆症の治療薬は、   
ビスフォスフォネートと呼ばれている薬で、   
特にアレンドロネート(商品名ボナロン、フォサマックなど)や、   
リセドロネート(商品名ベネット、アクトネルなど)は、
その効果が世界的に   認められています。

この薬にはある程度の骨量増加作用がありますが、
メインの作用はそれ以上の骨の破壊を抑える、というところに
 あります。 問題はまだまだ高額な薬であることと、
2年を越える長期使用の安全性についての議論のあること、
そして、特殊なタイプの骨折や、顎の骨の壊死などとの関連性が、
まだ完全には否定されていない、という点にあります。

より新しい薬として、テリパラチドという注射薬があり、
これはアメリカでは2002年から、日本でも2010年からその 使用が始まりました。 これは人間の血液のカルシウムを維持するホルモンである、
副甲状腺ホルモン(PTH)の作用を持つ注射薬で、
PTHの構造を部分的に合成したものです。

PTHは骨代謝を強力に高めるので、
その間欠的(毎日1回もしくは週1回)使用により、骨を壊す働きより骨を作る 働きの方が強くなり、
骨量は増加して骨折のリスクは低下します。

これは初めて骨を作る働きを強くする薬です。
ただ、この薬も非常に高額であることと、
定期的な注射が必要である、という煩雑さがあります。
更にはPTHが増殖に働くホルモンであるので、 ネズミで骨肉腫を誘発したとの研究結果があり、現状は長期使用には 慎重な態度が必要です。

そこで 今回ご紹介するロモソズマブ(Romosozumab)ですが、
これは抗スクレロスチン抗体という、全く新しい メカニズムを持つ骨粗鬆症治療薬です。 スクレロスチンとはどのような物質で、 その作用を阻害する抗スクレロスチン抗体には、どのような効果があるのでしょうか?

スクレロスチンは骨の組織の元になる、骨細胞のみで分泌される蛋白質で、 細胞外で骨形成蛋白質と結合して、 その働きを阻害します。
スクレロスチンが分泌されると、骨形成蛋白質が阻害されるということは、 要するに骨を作る働きが落ちるということですから、
骨は減少する、ということになります。

つまり、骨粗鬆症を進める結果になってしまいます。
それでは何故、このような身体に良くない物質が分泌されるのでしょうか? おそらくは、骨化が過度に進むことを抑制して 調節するような働きがあると考えられます。

スクレロスチンに関連のある遺伝子が変異して働かないという体質があり、 硬結性骨化症(sclerostenosis)という病気になります。

この病気では全身の骨化が進行して、骨量は増加し、
骨折もし難いことが確認されています。

これだけであればむしろ良いことですが、骨の過形成により神経が圧迫されるため、顔面神経麻痺や脊柱 管狭窄症が起こります。

スクレロスチンが完全に働かなければ、このように骨化は暴走するので、 良いことばかりは起こらないのです。 ただ、骨粗鬆症では、大なり小なりスクレロスチンは過剰に分泌されていることが想定されますから、 ある程度その働きを阻害するような薬は、骨粗鬆症の治療に有効である可能性が想定されます。 ロモソズマブは、 スクレロスチンに結合する抗体で、その使用によりスクレロスチンが阻害されるので、 それにより骨形成が刺激され、 骨量の増加に繋がると考えられます。 しかし、問題はどの程度阻害すれば、最も適切か ということです。 今回の臨床試験においては、 閉経後の女性の骨粗鬆症の患者さん419例を対象として、 ロモソズマブを様々な用量と使用法で使用した群と、 偽薬を使用した群、そしてビスフォスフォネートのアレンドロネートと、 PTH製剤のテリパラチドを使用した群の、全部で8つの群に分けて、 その後1年間の骨量の経過と、薬の安全性を検証して います。

偽薬群でもカルシウムとビタミンDは使用されています。
ロモソズマブは1ヵ月に1回と3ヵ月に1回の、 双方の使用で用量は70mgから210mgまでが使用されていますが、 明確に他の薬剤より骨量が増加したのは、最も用量の多かった、1ヶ月に210mgの群のみでした。

アレンドロネートが腰椎の骨密度を4.1%増加させたのに対して、
テリパラチドでの増加は7.1%で、偽薬では 0.1%の低下となったのに
対して、 ロモソズマブでは11.3%の増加率となりました。

同様の骨量の増加は、股関節や大腿骨頸部の骨量においても見られましたが、 何故か臨床で良く測定される 手首付近の骨の骨密度は、上昇を示しませんでした。 骨代謝マーカーのチェックでは、骨形成のマーカーは使用開始時に増加しましたが、 すぐに減少に転じ、骨吸収のマーカーは持続的に低下しました。 本来のメカニズムからすれば、骨形成のマーカーが持続的に増加しても良い筈なので、 これはちょっと不思議な結果です。 有害事象は1年の使用においては、 注射部位のかゆみなど以外には、殆ど認められませんでした。

今回の結果は抗スクレロスチン抗体の、骨粗鬆症に対する有用性を期待させるものです。 ただ、より長期の使用により、過剰な骨化を招くような弊害はないのかどうか、 本当に骨折の減少も見られるのか、というような点についてはまだ未解決です。 また、手首付近の骨量が増加しないことや、 骨形成のマーカーが持続的には増加しないことなど、想定された メカニズムに合わない知見もあり、今後より多数例での長期間の検証が、必要だと考えられます。 今後のデータの蓄積 を注視したいと思います。

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