2014年12月30日火曜日

癌代謝調節へのドラッグ・リポジション

【癌 ジェネリック・リポジション 創薬】


 

癌細胞の特異的代謝現象(癌代謝)を把握し、

癌代謝調節効果を有するジェネリック医薬品を見出すことは、ジェネリック・リポジションの格好の課題となる。

 
 
 
 【解説】 

癌代謝調節へのドラッグ・リポジション: 

新たな癌化学療法となりうるジェネリック薬の独自アッセイ法 
による選別と、
癌代謝調節物質の発掘を課題とした創薬探索において、
構造及び機能上の特徴として
次の化合物群に注目した。

1.   カルボン酸側鎖にヘテロ置換基、
共役構造、含窒素複素環構造などを含む。

2.   代謝関連物質となる生理活性物質、
及びジェネリック医薬品を含む。

 
【分野と背景】 

簡便な癌化学療法(代替療法)の選択肢となる化合物群と
そのアッセイ法に関する研究成果を提示する。

癌細胞と正常細胞の代謝活動は明確に異なっており、
癌代謝の解明、シグナル伝達研究も活発に行われている。
即ち、癌細胞や増殖期の正常細胞は活発な代謝活動が行われ、
解糖系とそれに続く脂肪酸代謝が亢進していることが知られている
(下図)。

 この癌代謝に関わる中心的代謝物質が、
新たな癌代謝調節物質探索の起点になると考えられる。

即ち癌細胞では、
炭素数5程度のカルボン酸が関与する代謝経路例えば、
クエン酸回路、ペントースリン酸化経路の活発な代謝亢進が認められ、
メバロン酸等の脂肪酸合成に必要な化合物生産とエネルギー(NADPH等)産生状態にある。

一方、脂質炭素骨格は
グルタミン(C5アミノ酸)の分解によっても供給される。
このように癌細胞では、炭素5個の脂肪酸、
メバロン酸、ゲラニル酸、さらにはグルタミン系アミノ酸
の需要が増加した状態にある。

明らかに正常細胞と異なる、
この癌代謝異常(代謝リプログラミング)は、
癌化学療法の新たな治療標的(ターゲット)として注目されている。
従ってこれらC5単位の脂肪酸基質と関連し、

代謝アンタゴニスト作用をもたらす疑似型低分子化合物は、
癌代謝調節の最も単純で有効な医薬品候補となる。

(中心的代謝物が、癌細胞の酸化ストレス耐性に関連した
還元性化合物として機能することは明らかである。)

 

【課題】 

古典的な殺細胞性抗癌剤の多くは
核酸やDNAを分子標的としてその複製を止め(代謝拮抗)、
あるいはまた近年開発された分子標的薬は、
(異常)細胞増殖シグナルを選択的な標的にした
化学療法剤として機能しているが、
相当な副作用を伴うことが問題視されてきた。

特に、近年のキナーゼ創薬の進展は目覚ましいが、
安全性や価格の面ではまだ過渡的な薬剤である。
例えば、肺癌新薬として期待されたイレッサでは
副作用に基づく死亡例が報告され、
裁判にまで発展したことは記憶に新しい。

 

本研究ではこれとは異なる、
安全性に軸足を置いた既存薬リポジション型の
治療薬探索の基本情報を提示する。

その際、治療効果の科学的エビデンスとして、
癌特異的な代謝(リプログラミング代謝)の視点からの
癌代謝調節物質としての機能を提示する。

特に、市販後調査済(使用実績)の
ジェネリック薬と関連化合物による癌代謝調節効果を精査し、
結果として患者自身が納得して享受できる選択肢となる
化学療法剤のシーズ(ジェネリック・シーズ)を提供する。

特筆すべきは、
これまでの細胞毒性に基づく抗癌性(anti-tumor)や殺細胞性(cytotoxicity)ではなく、癌細胞代謝制御(metabolic control) 効果に主眼を置いた、安全安価な癌治療を実現することを目指す、細胞治療(癌リプログラミング療法)の一助となる化合物群を提示する点が重要である。

すでに生活習慣病薬である一部のジェネリック医薬品類
(古典的抗糖尿病薬)には有意な癌予防効果
あるいは延命果があることが疫学的コホート調査から
示唆、報告されていた。

加えて癌患者の食事・運動療法が有効であることも
報告されている現状であるが、その生化学的分子メカニズム
(科学的エビデンス)の詳細は明らかではない。

 

【手段】

まず癌細胞の特徴的な過剰代謝(リプログラミング代謝)のモデル
となる3種の 発光癌細胞系を構築した。
これらは簡便なアッセイを可能にする発光性癌細胞であり、
各種ジェネリック薬の挙動を簡便かつ総合的に評価することができ、
癌代謝調節効果の多様性を判定した。
(癌代謝トリプルアッセイ法)。

より具体的な手法としては、
炭素総数数C5~C20程度の基本骨格を持つ
低分子ジェネリック薬を任意に選択し、
脂肪酸代謝、癌代謝に影響を与えるかどうかについて精査した。

 

特筆すべきは、
複素環(ヘテロ環)構造を有するジェネリック薬
に注目した点が発明の起点である。
即ち、含窒素、含硫黄官能基、さらに
ヘテロ原子を含む複素環構造を持つジェネリック薬を中心に、
生理活性カルボン酸群について重点的に、
癌代謝調節効果を正確に検証した。

上記のような複数のアッセイ結果から浮かび上がった
最も治療効果の期待できる低分子化合物及び、
ジェネリック医薬品を提示する。

 

【範囲】

母骨格となる脂肪鎖炭素骨格からなる一般式(I)で示される有機化合物を含む。

                 
これらのカルボン酸誘導体は、
癌細胞増殖効果と癌細胞運動性、EMT(上皮間葉転換)抑制効果の
いずれか又はすべてを有する活性があることが確認された。

 

これら化合物を独自に評価した3種のアッセイ系を用いた手法も範囲に含まれる。

即ち、ここで用いたアッセイ法は

1.癌細胞増殖の抑制効果 (proliferation test); 
2.癌細胞運動性の抑制効果 (mobility test); 
3.EMT抑制効果 (EMT test) を組み合わせたもので、
その詳細は【実験の部】で詳述する。

加えて、個々の化合物の毒性に関する既知データも十分に検証し、
直接的な医療応用の面から価値が高いことを確認した。

 

具体的には一般式(I)あるいは、個々の表記のような既知の有機化合物であり
すでに幾つかの生化学的性質が知られている生理活性化合物とジェネリック医薬品である。

(1~6の分類上重複する化合物もある)

1.   (C5)αアミノ酸群:グルタミン又はグルタミン酸と同様な炭素骨格、即ちC5単位を持つアミノ酸及びその誘導体: 一般式(I)においてC2置換基として、アミノ基及び窒素官能基を持つ塩基性αアミノ酸系化合物。さらにはC2位以外に、水酸基及び酸素官能基を持つカルボン酸、硫黄官能基を含む化合物である。
具体例としては、塩基性アミノ酸のアルギニン、オルニチン、リシン、アガリシン酸、ペニシラミンなどが含まれる。

 

2.  C2位に置換基を持つα置換カルボン誘導体:一般式(I)のC2位において、アミノ基以外の官能基を持つα置換カルボン酸類。具体例として次の化合物を含む。
ヒドロキシ)クエン酸、クマリン酸、バルプロ酸、プロパンオクタン酸などが含まれる。

 

3.  C3位に置換基を持つβカルボン酸誘導体:一般式(I)のC3位にアミノ基及び窒素官能基を持つβアミノ酸系化合物、水酸基及び酸素官能基を持つポリヒドロキシ酸、硫黄官能基を含む化合物、さらには各種アルキル置換基を有する置換カルボン酸が含まれる。
リンゴ酸、金チオリンゴ酸、プレガバリン、テトラメチレングルタル酸とその誘導体などが含まれる。

 

4.  C4位に置換基を持つγ置換カルボン酸誘導体:一般式(I)のC4位にアミノ基及び窒素官能基を持つγアミノ酸系化合物、水酸基及び酸素官能基を持つポリヒドロキシ酸、硫黄官能基を含む化合物、さらには各種アルキル置換基を有する置換カルボン酸が含まれる。
葉酸及びその誘導体、医薬品等を含む。

 

5.  C5位に上記のような各種置換基、共役構造、複素環構造を持つδ置換カルボン酸誘導体。
αリポ酸及びその誘導体を含む。

 

6.   C1~5位の複数の箇所に置換基を持つ置換カルボン酸誘導体。特に含窒素カルボン酸類似構造、複素環構造と共役構造のいずれか又はすべてを含むジェネリック医薬品と生理活性化合物群。具体的には以下のものを含む。

 

6-1.     アンセリン (カルノシン)

6-2.     エパルレスタット  (エパルレスタット類似物)

6-3.     オザグレル

6-4.     シロスタゾール  (シロスタミド)  

6-5.     スリンダック  (NSAIDs)

6-6.     セリチジン

6-7.         テモカプリル (ACE)

6-8.     ピオグリタゾン (チアゾリジン)

6-9.     ピタバスタチン (スタチン類似物)

 

6-10.    プランルカスト

6-11.    ブロナンセリン

6-12.    ミコフェノール酸

6-14.    モンテルカスト

6-15.     レバミピド (大塚

 

6-17.     GT-863 (HCl)

6-18.     SN-38 (HCl)

 

 

 

上記化合物は一般的な生活習慣病薬として広く利用されている既知化合物である。
すでに一群の受容体拮抗薬、酵素阻害剤としてその分子メカニズム(薬理作用)が十分に検証されているが、
癌代謝調節に関する明確な知見(評価)は皆無であった。この点が本特許化に至った根拠である。

従って本特許化合物の具体的な医薬用途として、直接的な投与、あるいは栄養輸液による補助的投与が直ちに可能であると考えるに足るエビデンスがある。さらに実効的な癌治療においては、癌予後効果、術後の再発予防、管理等の直接的な適用が可能であることが期待される。

 

【実験の部】

1.   癌代謝アッセイを行う細胞系3種の作成

 

2.   各種ジェネリック薬及びカルボン酸類のアッセイ法

 
3.   代表的ジェネリック薬の癌代謝調節効果の評価

特に活性の強いものが上記6 で示された化合物群 である。

 

 

 

 

【効果)】

既存ジェネリック薬の癌代謝調節効果に関する科学的エビデンスは皆無であった。

その一方で、各種の混合薬剤による(根拠不明瞭な)癌治療(予防、予後)の可能性を論じた特許、非特許論文は数多く存在している。

 

例えば、スタチン類については癌治療への期待を抱かせる報告も多いが、その効果の詳細な分子レベルでの解明はなされていない。即ち既知の酵素阻害の延長上にある知見に留まっている。本特許では複素環スタチンにおける顕著な癌細胞運動制御効果を提示した点が、既知特許とは明らかに異なる点である。

同時に、類似の複素環構造を持つシロスタゾールやレバミピドも癌運動性に関与するシグナル系に関与することも解明された。その一方、エパルレスタットはスタチンとは異なる様式で癌代謝に関与することも解明された。

 

このように、独自に3つの異なる細胞系を組み合せる簡便なトリプルアッセイ法(増殖、運動、EMTアッセイ)の効果によって初めて、上記ジェネリック薬(とその類似物)、及びカルボン酸誘導体が、特長ある癌代謝調節効果を示す明確なエビデンスが提供された。この代謝制御のより正確な分子メカニズムについては、おおまかに二つの型(スタチン型とエパルレスタット型)があることが把握された。

 

本特許の発見は、C5単位の脂肪酸代謝(メバロン酸経路)に近似した化合物が過剰な脂質代謝に影響を及ぼすことを示し、薬理学上のアンタゴニスト作用、あるいはインバース・アゴニスト作用として理論的に包括、理解できる事実である。ここに示した癌代謝調節分子の多くががヘテロ原子、ヘテロ環構造を含むことは、癌代謝へのインバース効果が、化学的な酸化還元反応への関与であることも示唆される。

 

一連の実験結果と論証から、これまで示唆的報告のあった各種ジェネリック医薬品を単独で癌代替治療に使用できる明快な知見が得られ、癌予防や予後治療の候補として単独活用できる道が開けた。

これらの結果は、直ちに活用できるジェネリック薬や栄養素の提示を最新の科学的なエビデンスと共に癌患者に提供できることになり、医療上の簡便性、安全性、経済性の面からの価値は大きい。

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