2013年5月13日月曜日

☆ 薬学 ことば 練習帳 ☆

 
 
 
 基本的な情報を伝える教科書のような文章ではどうしても強調が多くなります。上から目線にもなります。アドバイスしている文章も、こうすべきだ、こうしなさいという強い口調になりがちです。


これはいささか読者に不快感を抱かせます。無理強いをされているようで、だんだんと楽しくない気持ちが湧いてきます。


6年制薬学になり、なぜ化学を勉強しなければいけないか、
という章を書くにあたり、こんな文章を作りました。



 『薬剤師の本質的な任務は、くすりという物質の専門家(=最高管理者)であるということです。化学を勉強することは、物質について正確な理解、洞察をすることです。物質を分子の眼、原子の視点でみることです。従って、くすりを分子レベルで理解する化学をしっかり身につけていないといけません。

 

 具体的に言えば、くすりの構造式や基本的性質(すなわち化学的性質)をしっかりとおさえておくことです。くすりのトラブルを防ぐ監督官のようなものです。クスリをリスクの元にしない、そうしてクスリを正しく使用させ、効果を出して、病人を救うという使命を担った人になってほしいのです。そのために、化学は是非とも勉強していただきたいと思います』

 

 この文章のニュアンスは、もう楽しくないけれど仕事だから仕方ない、いやいやでもやろうという風に受け取られます。この文章を読んで、さあ薬剤師になろうという人が増えるとは思いません。薬学部を紹介する文章としては失格ということになります。では、どう書いたら良いのでしょうか。ある教科書の中の一文を紹介します。
 

 

『なぜ薬学で有機化学が必須か。

われわれの体は有機化合物でつくられている。体で起こる生命活動は大変複雑であるが、起こっている反応自体は有機化学反応である。たとえば酵素は高分子のタンパク質であり、さまざまな生体反応の触媒として働き、生体の恒常性を維持している。一方、我々の体や、細菌に作用する医薬品のほとんども有機化合物である。これら医薬品の作用も、生体分子と医薬品との相互作用の結果、発現されるものであり、そこで起こっている現象も有機化学反応である。


薬学部の学生が有機化学を勉強することは、医薬品についての正しい知識を身につけるだけでなく、生化学、薬理学、衛生化学といったさまざまな学問を効果的に理解する上で、かかすことのできないのは容易に想像できる。』

(ベーシック薬学教科書:有機化学;夏苅、高橋編、一部改変)

 



要するに、強要しないでやさしく導いているのである。ある大家から頂いたアドバイスによれば、文章の流れとして、こうしたらどうですか、そうするといいことがたくさんあるよ、というニュアンスのある文章の方が読んでいる人には心地よいということである。Should and Must ではなくWhy Not?というスタンスであり、Then you can find something interesting というわけである。

読者を楽しい世界に誘う文章、それにはShould and Mustのない文章を心がけましょう、これが3番目のサジェッションである。

 

くすりの世界には、コンプライアンスとかアドヒアランスとかいう、守らなければならない厳しいルールもあります。でも、何でもかんでも、しなくてはいけない、すべきであるでは、希望はありません。くすりを飲むひとにとって、夢と希望を感じさせる文章が必要とされるのはあたりまえの事ですから、薬剤師の皆さんはやさしい文章で、手をとってあげて下さい。もしできるようであれば、私の3つの提案を試して、どんな文章ができるか試して下さい。その文章に乗ってくる人が出ればしめたものです。

 

本コラムのご愛読有難うございました。

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