2015年6月27日土曜日

エピゲノミック・ドラッグ・リポジショニング 2015



エピゲノミックな視点からのドラッグリポジショニング



高崎健康福祉大・特任教授  鳥澤保廣
 

ジェネリック薬(既存薬)はさまざまな多面効果(プレイオトロピック効果)を有する。これがドラッグ・リポジショニング(DR)のエンジンになるので、これまで<複素環ジェネリック薬>に注目し、さまざまな解析を行った。[タウ凝集阻害;EMT/MET阻害活性;癌代謝調節効果;分子軌道MO計算等]この過程において、優れた多面効果を示したものが<複素環スタチン>であることもすでに報告した。(薬学会年会@神戸)

 

既存薬のごく一部の古典薬が(確率:<1%程度で)、なぜ選ばれたかを考察すると、遺伝子(DNA)周辺への干渉作用(エピゲノミック効果)が無視できない。即ち、穏和な遺伝情報の調節(作用)である。 そこで、複素環ジェネリック薬とヒストンタンパクとのエピゲノミックな相互作用(特にヒストンデアセチラーゼ阻害作用)に注目し、新たに優れた(エピ)ジェネリック薬を見出す検討を行っている。その概要を以下に記す。

 

1.  脳のビタミンを探す

古典的中枢薬の中にはエピゲノミックなヒント(示唆)になるものが多数ある。そのような視点から<脳のビタミン>になる化合物を探索した。バルプロ酸がHDAC(ヒストン脱アセチル化酵素)阻害剤であることが見出され、各種の癌治療への応用が検討されている。我々は炭素数10程度の単純なカルボン酸を調査し、医薬候補:アルンド酸(TCI)とそのヒドロキサム酸誘導体に興味を持った。特にヒドロキサム酸にはカルボン酸より強いHDAC阻害活性がある。しかし、このヒドロキサム酸類は安定性に問題があることがわかり、各種ヒドロキサム酸保護化合物(TCI)による評価をしている。(保護体はプロドラッグとして位置づけられる) その一方、αリポ酸やスリンダック(嫌酒薬)、オーラノフィン(リウマチ薬)等の含硫黄系化合物も金属酵素(メタロエンザイム)への配位能を有し、小分子エピドラッグのシーズとなることもわかった。

 

2.  脳の糖尿病をなおすジェネリック薬を探す

認知症の新薬開発は難航している。最近になり、インスリンやシロスタゾール等の既存薬転用が新たな光明になっている。認知症は「脳の糖尿病」であるという作業仮説に基づき、抗糖尿病薬のタウタンパク凝集抑制能について、非細胞系(ビトロ)での評価を行った(@同志社大学:脳科学研究所)。

その結果、古い抗糖尿病薬のエパルレスタット(キネダック)と、ある種のロダニン色素(TCI)に有意なタウタンパク凝集阻害効果が認められた。そこで、これら化合物の誘導体化を進めた。

新規誘導体化では、アッセイ系への水溶性を高めるために、BGL誘導体(TCI)の合成を行ない、活性比較を行った。さらに動物実験としては、遺伝子改変(Tg)マウスではなく、エピゲノミック効果を検証できる過剰タウリン酸化マウスによる経口投与を計画中であるが、難題である。(埼玉医大との共同研究)

 

3.  癌転移を抑えるスタチンを探す

古典的なスタチンのロバスタチン(製剤)が卵巣癌に著効を示すことが慶応大学他によって明らかにされた(本年6月)。スタチンはメバロン酸合成に干渉する薬であるが、もはやそれだけではない、遺伝子(DNA)周辺レベルでの作用が潜んでいることが強く示唆されている。

 

我々の検討でも、ある種のストロングスタチンにはHDAC調節作用が認められた。そこで、これまで市場にあるすべてのスタチン類(TCI)について、HDAC/HAT活性を評価した。そのうち活性があったのは、古典的スタチン(ロバスタチン)と新しいスタチン(3種)であった。現在これらCa塩製剤をより水溶性の高いポリオール複合体(アガロースゲル分散化)やBGLアミドへと変換する検討を行っている。

 

4.  糖尿病を治す不飽和脂肪酸を探す

スタチンやカルボン酸ミミックには抗糖尿病作用(DPP4阻害)が報告されている。一方、長鎖不飽和脂肪酸は毒にも薬にもなる可能性を秘めているので、この点に注目した不飽和脂肪酸の機能解明と有効な誘導体合成について検討した。

特に、長鎖不飽和脂肪酸のヒドロキサム酸(エイコサノイドのヒドロキサム酸)については、これまでにない活性が見出されている。従って、HDAC活性に加え、GPR受容体(脂肪酸受容体)への効果、さらにはアルデヒド分解酵素活性を指標にした共同研究を行っている。特に、GPR受容体は新しい糖尿病薬の可能性を開く創薬標的として認知されている

 

5.  新規ヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤の模倣合成

上記のようなジェネリック薬リポジショニングの過程で得られた構造活性の知見は、新規医薬品候補化合物の手掛かりとなる情報である。特に特許切れ間近な医薬品候補化合物を最低限の化学変換で、ゾロ新に変換する試みはロウリスク、ロウコスト創薬の道であり、大学での少人数創薬を可能にする創薬活動になる。

 

HDAC阻害剤の創薬は、Volinostatの成功例にもみられるように、きわめて単純な構造を持つ化合物による遺伝子周辺型癌治療を可能にしている。このHDAC阻害剤は既存の抗癌剤との併用により、相乗効果を発揮することがわかってきた。そこでHDAC阻害剤の探索についても触手を伸ばし、<Givinostat Phase II完)>及び<Pitavastatin (リバロ)> からの新規なゾロ化合物創製を行っている最中である。

 

         

  Givinostat                                   Pitavastatin

 

以上のように本研究では、既存薬を転用して新たな使い道を見出す温故知新型の「ドラッグ・リポジショニング」を推進する。このようなロウコスト創薬探索は大学やジェネリックメーカー等の非製薬業の共同作業で実現することができ、現代難治疾患への医薬提供に直結することを検証する。

 

 

1.  鳥澤保廣「アミノカルボニル化反応開発の記録」高崎健康福祉大学紀要(11, 71-79, 2012-03 

2.  鳥澤保廣「医薬品合成(現代アルケミー)への提言」高崎健康福祉大学紀要(8), 123-131, 2009-03 

3.  鳥澤保廣他「炭酸ガスを活性化する合成反応」高崎健康福祉大学紀要(7, 199-209,  2008-03

4.  鳥澤保廣「セシウム塩を使う有機合成」高崎健康福祉大学紀要(6, 123-134,  2007-03 

 


 

 

優れたジェネリック薬は多面効果(プレイオトロピック効果)を有する。

これが新たなドラッグリポジショニング(温故知新創薬)の起点になるので、

我々はこれまで複素環ジェネリック薬に注目しさまざまな解析を行ってきた

<タウ凝集阻害;癌代謝調節効果;分子軌道計算等>。

 

限られた古典薬だけがなぜ長く生き残ってきたかを考察すると、

遺伝子(DNA)周辺への穏やかな相互作用(エピゲノミック効果)を無視できない。

そこで、今回は複素環ジェネリック薬とヒストンタンパクとのエピジェノミックな相互作用に注目し(解析し)、

優れたエピジェネリック薬を独自に見出す検討を行った。

<エピジェノミックな効果を併せ持つものが

    優れたジェネリック薬となる>

 

1.      単純なカルボン酸類の HDAC/HAT活性

2.      エパルレスタットの タウ/HDAC/HAT活性

3.      ピタバスタチンの タウ/HDAC/HAT活性

4.      脂肪酸誘導体の エピジェネッテイック活性

 

 

 

 

 

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