◆認知症治療を助ける ジェネリック医薬品 (2)
◇ 高崎健康福祉大学・ 薬 鳥澤 保廣
2. 脳血管障害と認知症
シロスタゾールによる認知機能改善効果は、
脳血管障害が認知症発症のトリガーであることを
間接的に示すものである。
実際に男性認知症の場合、初期に起こった虚血性疾患
の発症を経て、認知症へと移行することが多く認められている。
このような事実は、これまでアルツハイマー病と診断された
大多数の認知症が、実は血管性認知症との混合型
(混じり合った症候群)であるというより厳密で、
適正な病態解析がなされる方向に導くものである。
(次図参照)
初期認知症の治療において、
積極的な血管機能の改善による治療
が重要であることを示唆する傍証(エビデンス)
が集まっている現状にある。
一方、シロスタゾールと並んで長期の市販後調査(Ph4)
の臨床所見などにおいて、認知症改善効果がみられた
ジェネリック薬がスタチン類である。
スタチンはコレステロール値を下げる
生活習慣病薬の代表選手であり、
現代の大型商品(ブロックバスター)として
市場を占有している。
薬効メカニズムはコレステロール生合成
にかかわる酵素(HMGCoA還元酵素)の阻害剤であり、
安全性の高い日常薬として処方されてきた。
スタチンには 多くの類似薬があるが、
そのなかでも酵素阻害作用の強力なストロングスタチン
として現在優勢なものが、 <ピタバスタチン>
(リバロ;興和・日産化学製)と <クレストール>
(塩野義・アストラゼネカ製) である。
これらは日本で開発された 一番新しいスタチンである。
ピタバスタチンに関しては 認知機能改善のメカニズムが
福井大学のグループによって報告されている。
実はスタチンの作用としては、
コレステロール合成阻害作用だけでなく、生体情報系
<キナーゼシグナル伝達系(Rho/ROCK系)> への関与
も認められており、細胞内の代謝回転を改善することから、
認知機能へのポジテイブな効果が期待されている。
治療から見たスタチンのプレイオトロピック効果である。
スタチン類は血管壁における肥厚や動脈硬化を抑制するので、
血管障害性認知症に有効であるというロジックが成り立つのである。
今後、より明確な臨床解析により、スタチン類が認知症治療薬
としての効能追加を認められる可能性は十分にある。
他方、高血圧薬として知られるサルタン系薬剤には、
明確な認知機能改善効果のエビデンスは得られていない。
ノバルテイス社のバルサルタン(デイオバン)には特に目立った
脳梗塞防止効果はなく、それは他の類似薬
(カンデサルタン;オルメサルタン)などでも同様なこと
である。このサルタン系薬剤の販売促進を目的とした、作為的
(恣意的)な学術論文捏造が行われたのは新聞紙上をにぎわした
周知の悪事であり、わずかに1年前のことであった。
製薬企業では利益さえ上がれば《やったもの勝ち》
というもうけ主義の因習がはびこっており、
武田薬品や協和キリンにおいても例外ではなかった。
厳しい制裁的な処分が望まれる。
この点は米国のほうが、はるかに厳格な裁判と処分がなされている。
以上のような血液血管系へのポジテイブな作用から
期待がもたれているジェネリック薬は、
シロスタゾールと スタチン類の多く である。
蛇足ながら、我々の予備的実験においては、
スタチン類にはメチレンブルー(MB)のような直接的で強力な、
タウタンパク凝集阻害作用は認められていない一方で、
EMT阻害(坑炎症作用)などがメカニズムを含めて解明されている。
またED治療薬として一世を風靡したシルデイナフィル
(バイ アグラ)はPDE5阻害作用による血管拡張薬であるが、
認知症に対する明確な効果については傍証が少ない。
認知症治療を助ける ジェネリック医薬品(3)
高崎健康福祉大学・薬 鳥澤 保廣
3. 認知症とインスリン仮説
http://tanoshikuyakugaku.blogspot.jp/2014/12/blog-post_23.html
認知症は 脳の糖尿病 と呼ばれています。
実際NHK特集でも放映されたように、鼻腔から
インシュリンを投与するという過激な、過渡的治験によって
認知症の改善を目指す試みが行われているようです。
しかし、消化ホルモンを本来通過すべき臓器以外から
無理やり投入するのは、いささかお門違いではないか
とも考えられます。
たとえて言えば、9回裏同点に追いつかれてから
リリーフピッチャーを投入するような急場しのぎの感があります。
しかし、認知症の治療コンセプトとして、インスリン仮説は
しっかりしたものになっています。(Wikipediaなどを見てください)
インシュリンは糖代謝の鍵となるホルモン(ペプチド)であり、
その構造的特徴として、ジスルフィド(S-S)結合を有しています。
化学的には、アルツハイマー症にかかわる、アミロイドや
タウタンパクにおいても、このジスルフィド結合がその
機能上重要な働きをしているのです。
つまり酸化還元反応に関与するホルモンや、各種の
タンパク(ペプチド)が認知症の発症と関係すると考えることは、
正しいロジックなのです。
以下にはその生体内でおこる酸化還元反応について少し解説します。
生体は酸素を使った代謝反応でエネルギーを取り出しています。
地球には後から充満した大気である、<酸素>を使って
生命のサイクルを駆動することで、長寿命の生物が存在する
ようになりました。
従って、酸素の力によって生命は成り立ち、
同時に酸素によって好ましくないダメージも受けています。
体の中で発生する便利で危険な道具 『活性酸素 (ROS) 』 が
そのすべてを説明する (原因)化学物質であることは、
よく知られたことです。
酸素(O2) が還元されて生成するこの活性酸素(ROS)は
両刃の刃であり、さまざまな病態と密接に関連しています。
ここでは糖尿病とその合併症についてホーカスを絞ってお話します。
周知のように糖尿病がやっかいな病気なのは、
誰でもかかる生活習慣病であり、その恐ろしさは、
無症状で進行し、さまざまな合併症を引き起こすという
やっかいな慢性病であるという点です。
糖尿病の合併症の代表的なものとしてはこれまで、
糖尿病性腎障害、糖尿病性血管障害、そして
糖尿病性網膜障害が重要なものとして注目されていました。
いずれも長期治療や、身体機能の不自由を強いられる苦痛を伴う
慢性疾患です。
今、糖尿病性脳疾患として、アルツハイマー病が
その仲間に入ってきたところです。
これらの慢性疾患はすべて『活性酸素の二次被害』
と考えてよろしいかと思います。
もし、糖尿病治療において、やっかいな合併症のいくつかに
同時に対応できる手立てを講ずることは大変重要な治療の
コンセプトになります。
ここではそのような視点から、我々が着目した古い
ジェネリク薬 エパルレスタット(キネダック)
について紹介します。
http://tanoshikuyakugaku.blogspot.jp/2014/12/blog-post_23.html
(続)
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