【背景】
高脂血症薬(抗コレステロール薬)として知られるスタチン類は、1983年のMerck社のロバスタチンの発売に始まり、現在まで約8種の化合物が市場を賑わしている大型新薬(ブロックバスター)である。
これら薬剤は、本来の作用(コレステロール合成阻害)以外の多面的効果(プレイオトロピック効果)についても、臨床的な見地から興味が持たれている。
現在世界で最も売れているスタチンである、アトルバスタチン(リピトール)については、動脈硬化の抑制、アルツハイマー病進行の抑制などに期待がもたれている。
その反面、横紋筋障害や、認知機能の低下等の副作用についても議論されるに至っている。
このように、スタチンが関与するメバロン経路の調節は、多様なプレイオトロピック効果の発現を示唆するものであるが、中でも癌転移との関係は近年の癌代謝研究の進展と相まって、最も注目に値する課題と考えられる。
【癌研究の動向】
癌代謝研究の中心課題として現在注目を集めているものが1)EMT(上皮間葉細胞遷移)と 2)癌幹細胞制御 の2点である。
これまでの基礎研究の結果、これらを標的とする既存医薬品がいくつか見出されている。従って、EMTと癌幹細胞制御に関わる低分子型既存医薬品の探索は時代のニーズにかなった創薬戦略であり、既存医薬品のリポジショニングによってこの目的が達成できれば、創薬の低リスク化をなしとげる格好の研究課題となる。
【スタチンによる癌転移抑制効果の実証】
すでにスタチン類によるコレステロール合成の抑制が、細胞増殖の抑制につながることを示唆する研究成果が多数報告されている (2014総説)。
古典的なスタチンであるロバスタチンや類似構造を有するシンバスタチンに関しては、細胞増殖にかかわる幾つかの経路の抑制に基づく、乳がんや腎がん細胞の増殖阻害が明らかにされている。
特に興味深い事実は、
シンバスタチンによって、乳腺管腔構造の破壊が阻止され、正常細胞への回復する点であり、がん細胞の性質を抑制することを意味している。
これらの事実に加え、メバロン酸経路の阻害は、宿主免疫系を活性化する報告もなされており、癌微小環境の改善に寄与することが報告されている。
従って、スタチン類の抗癌作用を期待した各種誘導体の合成や、リポジショニング創薬は十分期待の持てる癌化学療法の新機軸である。
以下 略。
【研究方針: ストロングスタチンの再評価】
ロバスタチンやシンバスタチンは古典的(第一世代)スタチンであり、現在汎用されているスタチンは、先述のアトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチンなどがあり、特に日本で開発された後者2品はストロングスタチン(高活性型)と称されている。
アトルバスタチン(ファイザー社)とロスバスタチン(AZ社)はすでに、広範囲な市販後調査(PMS)が展開されており、アルツハイマー薬などへの応用開発も試みられている。ピタバスタチンに関しては昨年8月に特許が切れ、本年からジェネリック医薬品が台頭しており、そのプレイオトロピック効果についても興味が持たれている。
これらストロングスタチン類の抗癌作用(癌転移抑制効果)の実証については、いまだ明確な報告はなく、信頼できる実験系、その作用メカニズムの検証が急務である。
以上のような観点から、ストロングスタチンの癌転移抑制効果とその実態解明につながる動物実験系の構築を行ない、癌化学療法への応用開発についての検討計画を立てた。
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